アパート経営における収益が増えてきた場合、個人にかけられる所得税は累進課税であることから、節税のためにも法人化が検討できます。
一方で、法人を維持するためには個人で事業を行っているときとは異なる支出が発生します。
本稿では、そのようなアパート経営における法人化について、法人設立が有効なタイミングやそのメリットについて解説しますので、ぜひお役立てください。
目次
アパート経営における法人化とは?
アパート経営における法人化とは、法人を設立し、アパートを法人所有の扱いにしたうえで不動産投資を行うことを指します。FIREや不労所得目的でアパート経営を実施する場合、初期は個人事業主として収益を得るケースがほとんどです。
近年は、「法人税率の引き下げが行われている」「法人設立のハードルが低くなった」などの理由から、個人の不動産投資においても法人化は十分に検討の余地があります。
法人化すると、不動産収益は「役員報酬」「給料」などの形で受け取ります。法人化をするのは“節税”のためであるケースが多くみられ、実際に不動産所得次第では法人化すれば節税につながります。
では、節税目的ならどういった条件のもと法人化するべきなのかについては、次項より解説します。
アパート経営で法人化を検討する所得目安
個人にかかる不動産所得税は累進課税、つまり“収入が増えれば増えるほど税率も上がる”仕組みですので、一定のラインを越えれば法人化した方が税制上のメリットを享受できます。
具体的には、アパート経営にかかる合計所得が900万円を超えるラインです。
なお、アパート経営にかかる不動産所得は正確には総合課税に分類され、所得金額に応じた税率・控除額は以下のようになります(※1)。
一方で、2022年6月現在、普通法人にかかる税率については23.4%と定められています(※2)。それを踏まえ、上図と比較すると、年間の収益が900万円を越えれば所得税率が法人税率を上回るとわかるでしょう。
アパート経営を法人化するメリット
相続にかかる負担が減る
アパートの相続まで見据える場合、法人化することでその手続きを簡便にできます。アパートのような不動産は分割しづらく、現金などに比べて相続にかかる負担も大きいのが通例です。
しかし、株式会社を設立し、アパートを法人所有のものにしておけば、相続財産は株式となるため、相続しやすくなります。入居者との賃貸借契約や家賃の振り込み口座も、法人名義のものをそのまま承継可能です。
経費の適用範囲が広い
アパート経営を行っている場合、資金の使い途については個人用/事業用で明確に明確に分けなければなりません。法人化すれば、経費として計上できる用途が増えますので、法人税率に加えて、さらに節税が可能です。
法人化により計上できる経費の例としては「移動用に使用する車」「生命保険」などがあげられます。
欠損金を長い期間繰り越せる
アパート経営で赤字が出た場合、個人経営では繰り越せる期間が3年までとなっていますが、法人なら10年まで繰り越せます。これにより、個人に比べ法人の方が会計戦略を柔軟に策定できます。
法人化にかかる注意点
法人の設立・維持に必要な費用
法人を設立する際には、登記費用として以下のようなコストが発生します。
<法人の維持に必要な費用>
- 定款認証費用…5万円
- 定款印紙代…4万円
- 登録免許税…最低15万円
上記に加え、法人設立時に作成する定款の作成や登記手続きを司法書士に依頼する場合、10万円前後の依頼料も必要となります。こういった登記や司法書士への依頼費は、会社の移転や役員変更を行うたびに必要です。
さらに、設立時に求められる費用に加え、法人を維持するためには下記のような費用も必要です。
<法人の維持に必要な費用>
- 法人住民税均等割…7万円
- 税理士報酬…顧問料年間50万円~
- 社会保険料
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
このように法人を設立し、維持するためには多くの資金が必要です。場合によっては必要費用が節税メリットを上回ってしまう可能性もありますので、アパート経営で得られる収益もあわせた判断が求められます。
ローンの残債について
アパートの購入のために金融機関からローンの借り入れを行っていた場合、法人化によって物件の名義が法人に変わるため、トラブル防止のためにも借入先の金融機関に確認をとりましょう。
個人から法人へ所有権を移転する際には、基本的にはアパートの簿価で行います。この簿価がローンの残債よりも大きい場合は、余剰分を別途支払わなければなりません。
本業の就業規則
副業としてアパート経営を行う場合、本業の就業規則についても留意しなければなりません。昨今は副業ブームが来ているとは言え、まだまだ副業が禁止されている会社は多く存在します。
家族に法人としてアパート経営にかかる給与を支払っていて、その家族に本業がある場合も、同様に就業規則に留意することが必要です。
アパート経営で法人化する手順
① 法人の種類を決める
アパート経営で法人化を行う場合は法人の種類を決める必要があり、多くは「株式会社」「合同会社」のどちらかを選択します。
株式会社は設立費用が25万円程必要ですが、前述した相続にかかるメリットに加え、融資も受けやすくなっています。その一方で、合同会社は融資を受けづらいものの、初期費用11万円で設立可能です。
合同会社から株式会社への変更もできるため、費用負担が懸念されるなら、まずは合同会を選択しても問題はありません。
② 定款を作成する
定款とは、会社の基本情報や根本規則が記載された書類で、会社法に基づいた内容にする必要があります。フォーマットについては公証役場などで確認できますが、具体例としては以下のような内容を記載します。
<定款に記載する内容例>
- 商号
- 本拠所在地
- 代表者の名前と住所
- 事業内容
- 資産
さらに、取締役の人数や、株式会社の場合は株式譲渡の制限の有無など、法人化にあたって定めるべき要件は多く存在します。
③ 登記書類を準備する
定款に加え、法人登記を行う際にさまざまな書類を用意しなければなりません。主に必要なものとしては以下の通りです。
<登記に必要な書類>
- 定款
- 資本金の払い込み証明書(書面)
- 就任承諾書
- 役員全員の印鑑証明
- 印鑑届出書
- 登記申請書
上記書類は個人でも十分に用意できますが、難しい場合は司法書士への依頼も検討しましょう。
④ 法務局で登記手続きを行う
法人の登記は法務局で行いますが、「登記日=設立日」になる点については把握しておく必要があります。小規模な登記ならオンラインでも行えますが、書類に不備があった場合はやり取り期間が長くなってしまいかねません。
⑤ 税務署に開業の届出を行う
法人として開業を行えば、2ヶ月以内に税務署に届け出ることが求められます。その際に必要な書類としては、以下のようなものです。
<開業届けに必要な書類>
- 登記簿謄本定款の写し
- 株主名簿の写し
- 設立時の貸借対照表
- 出資者の氏名や金額がわかる書類(※いる場合)
以上が完了すれば、アパート経営の法人化が終了します。
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まとめ
アパート経営を実施するうえで不動産所得が900万円を超える場合は、法人化することで節税に繋げられます。
さらに、法人として不動産投資を行えば、相続にかかる負担も軽減できるなどのメリットがあります。
一方で、法人の設立と維持には多くの資金が必要であるため、節税可能な金額とあわせて判断する必要があるでしょう。