アパート経営のような長期にわたる不動産投資では、ローンの返済費が減価償却費を上回ることによる「デッドクロス」のリスクが存在します。
デッドクロス状態に陥れば、帳簿の上では黒字経営であったとしても、キャッシュフロー(=現金の流れ)は悪化してしまいます。
本稿では、アパート経営で失敗しないために必要なデッドクロスについて、基本的知識やその回避方法について解説します。
目次
そもそもデッドクロスとは?
デッドクロスが発生する原因は「借入れた不動産投資ローンの元金返済額 > 減価償却費」の状態になった結果として起こる、キャッシュフローの悪化です。帳簿上の利益は黒字であったとしても、手残りの資金が少なくなると、経営破綻につながります。
アパート経営では、物件の取得費用を1年で経費計上するのではなく法定耐用年数に分けて翌年以降に繰り越し帳簿上の経費として申告できます。これにより2年目以降は帳簿上にしか存在しない経費を計上できることになり、それだけ不動産所得税の減税に繋がるのです。
しかし、アパート経営にあたって利用するローンの元金返済額部分は経費として計上できません。
そのため、減価償却で節税できる金額が元金返済額部分を下回ってしまうと、毎月キャッシュはしっかり出て行っているにも関わらず、帳簿の上では黒字であるため、所得税を多く支払わなければならなくなります。
この状態のまま、どんどん手元のキャッシュが少なくなってしまうと、帳簿の上では黒字であるにも関わらずアパート経営が立ち行かなくなる、いわゆる「黒字倒産」を招いてしまいます。
デッドクロスについて考える際に重要な要素
デッドクロスについて詳しく理解するためには、 減価償却とローンの経費計上の仕組みについて踏まえておく必要があります。
減価償却の仕組み
前述のとおり、アパートのような固定資産は、法定耐用年数をもとに数年あるいは数十年にわたって取得費用を分割して経費計上します。減価償却費の計算方法としては「定額法」「定率法」の2種類です(※1)。
- 定額法…不動産の耐用年数にわたり、毎年の減価償却費を計上する方法。毎月の計上額は一定
- 定率法…毎年決められた比率で減価償却費を計上する方法。初年度ほど計上できる金額が多く、経年とともに減っていく
どちらの計算方法を用いるにしても、減価償却期間が終了すれば一気に所得税が増えることは変わりません。しかし、年々計上可能な金額が減っていく定率法の場合は、よりデッドクロス発生のリスクが高いと言えます。
ローンの経費計上の仕組み
毎月支払う不動産投資用ローンの返済金を一定にしたいなどの理由で、ローンの返済方法に「元利均等」を選択していると、経年とともに返済金における元金(=経費計上できない部分)の内訳が増えていきます。
そうすると、必然的に「所得税の課税対象額が増えていく」状態になりますので、デッドクロス発生のリスクが高まります。最も懸念しなければならないのは前述の定率法に加え、この元金均等の返済方法を選択していた場合です。
極論を言うと、デッドクロスに陥ったとしても、ローンの返済や税金の支払いをできるだけのキャッシュが手元にあれば問題ありません。
しかし、アパート経営では収益悪化につながる空室リスクなどの様々な懸念点が存在するため、デッドクロスのタイミングと経営状態の悪化が重なると、投資活動自体が破綻しかねません。
アパート経営をはじめる前のデッドクロス対策
自己資金を多く投入する
自己資金を多く入れて購入すれば、ローンの元金返済が小さくなるため、資金繰りに余裕が生まれます。借入期間を短縮できる可能性があるという点でも、デッドクロスのリスクを減らせるでしょう。
毎月の利益や課税額は予測するしかありませんが、減価償却費とローンの返済額は物件購入前の段階で検討可能です。
一般的に、アパート経営のような不動産投資において投入するべき自己資金は「物件価格の1割程度」と言われています。その点も考慮しつつ、用意する自己資金を検討しましょう。
元金均等返済を選択する
ローンの返済方法には前述の「元利均等」だけでなく、毎月返済する“元金部分”が一定となる「元金均等返済」があります。元金均等返済では、ローンの返済初期は借入金の残額が多いため、利息が多くなる点がデメリットですが、経年とともに毎月の返済額自体は減っていきます。
アパート経営初期は前述の通り減価償却により所得税の課税額を抑えられますので、デッドクロス対策としてはこちらの方が有効です。ただし、元金均等は不動産投資初期の収支が悪化しやすい点については考慮しなければなりません。
収益性の高い物件を購入する
デッドクロスに陥ったとしても、手元にキャッシュがなくなりさえしなければ問題ないと前述しました。それを踏まえると“そもそもとして収益性の高い物件を購入すればいい”のだとと言い換えられます。
アパートの収益性については立地条件や築年数などに加え、実際に過去から現在に至るまでの入居率を参照すればおおよその予測がつきます。
アパート経営スタート後のデッドクロス対策
積み立てを行っておく
デッドクロス状態で最も懸念されるのは、キャッシュフローが悪化してローンの返済や税金の支払いができなくなることです。そのため、日常的に積立を行い、キャッシュフローが悪化した状況に備えておくのも対策方法となります。
「どの程度の積立を行っておけば良いのか」問題については、経営状況が悪化による物件売却が選択肢としてあがることを考慮すると、一般的な不動産売却に必要と言われる3ヶ月から1年間は支払いを続けられる額が望ましいでしょう 。
ローンの借り換え・繰り上げ返済を行う
ローンの返済額を下げるためには借り換えによって金利を下げたり、返済期間を伸ばしたりすることも選択肢としてあります。初期に借り入れたローンではデッドクロスを避けられないとなった場合には借り換えも検討されるでしょう。
さらに現場で資金に余裕があるなら、繰り上げ返済を行い、返済額を減らせれば、将来的なデッドクロスに備えられます。
デッドクロス対策では「出口戦略」も明確にしよう
デッドクロスの破綻を防ぐためには、最終的に「どう経営するアパートを手放すのか」という出口戦略も明確に作成しておく必要があります。一般的にはデッドクロス発生確率が高まる減価償却の終了タイミングが物件を売却するのに適しているでしょう。
一方で、アパートのような不動産を売却するためには、少なくとも3ヶ月から半年以上の期間がかかります。ちょうど減価償却が終了する年に物件を売却しようと思えば、その前年よりも前から売却に向けた準備を進めておかなければなりません。
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まとめ
毎月のローンの返済額が、減価償却で計上できる経費を上回るデッドクロスの状態に陥ると、帳簿上は黒字であるにも関わらず、どんどん手元のキャッシュがなくなっていくため経営が破綻するリスクが高まります。
そういった状況を避けるためにも、借り入れるローンの金利や返済期間について事前に検討したり、普段から十分な積立を行っていたりする必要があります。
さらに、アパート経営では物件売却にかかる出口戦略を描くことも重要です。それを踏まえると、デッドクロスが発生しやすい減価償却の終了タイミングに合わせて物件を売却することは、非常に理に適っていると言えます。
参考:
※1
国税庁「定額法と定率法による減価償却」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm,(2022/06/30)